自転車(A bike)

近所のガキに自転車を盗まれた
その時、自分もガキだった
父は、どこかの外国に
母は、どこかの病院に
妹は、行方知れずで
 
その時、自分は、近所のガキに自転車を盗まれた
ピカピカの、真新しい、補助輪のついた自転車
腕力だけが誇りの、小さなガキによって
自分から、遠ざかる、自転車

喪失とともに、悲しみが伴っても良いはずなのだが
軽やかなユーモアが、そこにありました
記憶によって、カリカチュアされた
近所の、腕力だけが自慢の
小さなガキ

あなたは、どうしているのでしょうか
あの時からは、ずいぶん、時が経って
お互い、姿かたちも変わり
それはそれは全き他人であるので
お辞儀まではしないけれど
敬語を使わせていただきます

あなたは、大変なご苦労をされて
一人前の丈夫になったでありましょうか
何もかもが、不確かで、不安な毎日を
確かに、生きていらっしゃいますか

こちらは、元気にやっております
あなたが、自転車をわたしの手から、
ひっぱりあげたその日から
世界に、悪があることを知りましたが
あなたには、今も腕っぷしが自慢であって欲しいと
なぜか、思います
その腕っぷしを、悪の方向ではなく、善の方向へ
ご活躍させてますか?

わたしから、自転車をかっぱらったことしか
あなたを知りませんが
その一部始終の挙動から、類推するに
あなたは、厭世的なるものから、無縁でしょう
益荒男という、漢字三文字が、似合う
あなた

どうかお元気で